慶応元年 盆

最も重く、最もチャレンジングなルートと言っても過言ではない、平助/山南裏表ルート。

物語論で「焦点を当てることができる上限は3人」というのを聞いたことがあります。ぎゅっとまとまった劇場版だと千鶴、土方、風間の物語って流れですし、なるほど。それをこの季節に当てはめると、平助or山南、松原、そして土方じゃないでしょうか(千鶴は掘り下げ役として、無色透明に平助・山南の隣)。

〇平助編

「魁先生」の通り真っ直ぐ。同時に繊細で和を重んじる性格であり「疑うこと」「疑われること」それぞれの痛みが迫ってきました。「京都からの隊士にとって土方は実態以上に厳しく見える」というのもしっかり見抜いて。あーうん…うん…。土方が伊東に対して警戒バリバリなのも心苦しいんだろうなあ。しんどいよねえ…板挟み…。

そして松原の弔いも満足に行えないことへの無念さもですが、彼の「そもそも新選組に入ったのは人々を守るため」という本懐を受け止め見届けたことで、志のために新選組は必須の条件ではないのだと気づいてしまいましたね。ああ、御陵衛士へのルートがどんどん整備されていく。

出だしの明るさとは遠いところにたどり着いてしまいましたが、それでも平助の判断には常に千鶴が寄り添っていたのは救いだったのでしょう。いやほんと嬉しいというか、落ち着くよ。荒れるのがなんぼか治まるよ。「線香の一つでも」といやに具体的な会話だからいっそう来るものがあるのか…二人で分け合う夏の夜風が染み渡る。

〇山南編

自ルート(と平助ルート)以外は出番が控えめで、いざ登場すると「何しでかすんや」という緊張感とともにプレイヤーにファインティングポーズを取らせる男ですが、本人は新選組に貢献しようとしてるだけなんですよね。羅刹隊を前提としてるけど総長だもの。離れてるからこそ、見えるものもある。

そういった(人倫は横に置いた)合理性とは別に、引き留める千鶴に山南が詫びた「あの時」ですが、具体的に千鶴が回想した会話は殺すように迫られたところでしたね。普通に生きていてほしかったのに、それどころか死を願われる恐怖と罪悪感。山南から「思っていた以上に」という言葉が出てきたのは、それが千鶴の傷にならないはずがなかったと、ここに至って彼も彼女をひとつ理解したからこそだと思います。迫る死が、得体のしれない化け物に変じた山南のことが怖かっただけではない。千鶴は悲しかったのだと。

でもだとしても、彼の自制心をもってしても持て余すほどの孤独を解消できる機会を逃したくない…あまりにも人間的で切ない攻防でした。でも提案・交渉するにはあまりにも胡散臭すぎるからもうちょっと土方への態度を省みるべきだと思うんですよ。

結局松原は羅刹の道を選ばず、山南もまた現状維持。ただ彼の渇望を吐露した相手が一人いる、の事実はこれからに向けて大きな変化でしょう。とはいえ非トゥルーだと平助ルートに行く可能性を否定できないのでちゃんと千鶴カウンセリングを受け続けるように。

〇松原/土方

このルートの主役でこそないものの、もう二つの焦点。正解がない関係。意識しなくても彼らの間には権力の勾配があり、それがどのように作用するのかという恐ろしさ。

土方という作品の顔がいたって善良な隊士と決定的にかみ合わず、追い詰めてしまう汚れ役…というのは驚きです。ただこれは松原が頑なだったのも否定できないし、自分の非を認めた土方が目立つだけで根本原因は実体のない噂平隊士の不満であって、それを御そう、利用しようとした上位層がそれぞれ対応がズレてズレて…という流れ。胃が痛い

外野的には伊東派への警戒も過剰では?と思ってしまうのですが、土方的には決して許容できない展開、羅刹という爆弾を抱えてる試衛館組が彼らの使い走りに成り下がるリスクを無視できないのが痛い。平助はそもそも羅刹問題に距離を置いてて、山南はがっつり羅刹の責任者で、そりゃー土方とは伊東派への対応に差が出るわ。それに一回谷・武田に食い込まれた苦い経験もある。結果、連携できてたら…どころか、舐められまいといっそう立場を重視した判断を下す傾向が強くなってまった。ほんと循環がまずい方向へ…しかもこれ加入一年目の話っすからね。地獄か?

<味わいメディアミックス>

1.意外な一面

(TV6話)「あの日、薬に負けそうになった山南さんが、近くにいる…」

結構衝撃的な千鶴のモノローグ、「また同じことが起きるかもしれない」という危惧、不信の芽。直前に山南本人にはすごい明るく声掛けしてたから「こういうシビアなこと考えるんだ!」なギャップ。前向きで優しい、明るいだけの子じゃない。

いやでもそりゃね。TV版では「刀の柄で引っ張りっこ」してるんですよね。当然力負けしてじわじわと切っ先が沈んでいくとこまで描かれて。本編では「刀を握った山南の腕を抑える」ですがそれより絵面がやばい。視聴者的にも怖い。暴走されたらどうしようもないのも骨身にしみてしまったし、この件で土方からは「いつ死んでもかまわない」とごん太の釘を刺されてるわけですし…この後、千鶴がやや消極的に見える(二条城警護に声掛けされたとき意表を突かれたような反応)のも、引きずってたんじゃないかな。山南との関わりまじで絶たれるし。

2.どっちにフォーカス?

平助はTV版では「幕府の家来みたいになっちまった」と明確に佐幕から距離を置きたがっていたのが、劇場版では「尊王と佐幕、どっちが正しいかはわからない。けど俺が声をかけた伊東さんを放っておけない」となっていて、義理堅さ、「人間関係をフォローしたい」という傾向が強まってました。そして天雲では「このまま(近藤や土方だけ)では幕府に使い倒される」という危惧と、橋渡しをしたいという熱意と、両方の掘り下げですね。

3.二人

OVAでも平助/山南は二人組になってましたが、やっぱり劇場版・二本松での種明かしよ。「山南さん、やっぱり!」の喜びにあふれた声と「あなたたちは全く」の呆れつつも誇らしい、というような、すごいお兄ちゃんな声

また劇場版山南の決断の背景として、羅刹化時に「あなたの父上がいけない」「新選組に入り込んだ毒」と激高しながら千鶴の首を締めにかかってて、自力では戻れなかった、というのは大きな違いですね。病みが強かったし、結局根っこのところで羅刹を肯定してなかった

これ以降千鶴との関りは描写されないのですが、直前に彼女が体当たりで止めに入ったことを覚えていたからこその「あなた「たち」」だったのかなあと思ってます。

「山南さん、お食事をお持ちしました」
「…どうぞ」
山南・意外とご飯の量がわんぱく・敬助(OVA)。千鶴に目線をくれるようになったのすごい軟化だと思います。線引きが厳しいTVベースだと多分正面見たままになってた。